研究紹介

私の研究業績の解説(第一回)

早川 徹(帯広畜産大学)CV

私が筆頭著者となっている論文はそれほど多くはないですが、大部分は学生時代から取り組んでいるテーマのもので、 今でもメインテーマとして取り組んでいます(「今でも」というよりは、「今また」取り組むことができる環境にいることができていますので、この点については、関係分野の先生方に大変感謝しなければなりません)。 そのテーマというのが「ミオシンの水溶化機構の解明」です。 一見、「なんのこっちゃ?」と思われる方も少なくないでしょうから、順を追って説明していきたいと思います。

ミオシンとはお肉、つまり筋肉中に含まれるタンパク質の一種で、筋肉の収縮・弛緩に大きく関わっていると同時に、筋肉の構造を形成し物理的に組織を支える役割も担っています。 これまで多くの研究者が筋肉の収縮メカニズムを解明しようと取り組み、その甲斐あってミオシンが筋肉の収縮にどのように関与しているのか、また筋肉がどのように収縮と弛緩を繰り返しているのかは、ほぼすべて解明されていると言えます。

またミオシンは筋肉組織中で重合体を形成しているため、生理的塩濃度以下の塩溶液中では重合体を形成し溶解しないとされています。 実際にミオシンを筋肉から抽出する際も高塩濃度溶液を用いることから、ミオシンは塩溶性のタンパク質であると多くの教科書や実験書には書かれており、 ミオシンの研究が盛んになったこの半世紀以上「ミオシンは水に溶けない」ということが筋肉科学および食肉科学では『常識』として考えられてきました。 誌面(?)の都合上、詳細は割愛しますが、偶然、そのミオシンがほとんど水に近いような低塩濃度溶液に溶解している、つまり「ミオシンが水溶化している」ことを発見しました。 そこから、溶解する条件などを検証し、ミオシンの水溶化が確かな現象であることを確認しました(これが私の修論・博論となりました)。

この時点で先ほどの『常識』を半分ほど覆したと私は思っています。 残りの半分は「なぜ水溶化するのか?」というメカニズムを解明することであり、理論的に説明できて初めて『常識を覆した』ことになると考えています。 このテーマにおいての当面の目標がそこになるでしょう。 しかし、『常識を覆す』ことは研究の醍醐味の一つではあるものの、それ自体が目的にはなり得ません。研究を通じて社会をより良くすることが、私たち研究者の使命です。

そもそもこの研究は「お肉のタンパク質を水に溶かそう」という目的で始まったものです。 お肉のタンパク質を水に溶かすことで様々な食品への応用ができるようになる上、通常は硬くて食用にできないような家畜(たとえば繁殖の役目を終えた老齢家畜など)の新たな資源活用法として利用が期待できます。 このような社会的な目的のためにも、現象面を捉えて終わるのではなく、きっちりとメカニズムを究明することが必要だと考えています。

参考文献:“Myosin is solubilized in a neutral and low ionic strength solution containing L-histidine” Hayakawa, T., et al., Meat Science, 82, 151-154. (2009)

第二回へ続く・・・

推薦:江草 愛(日本獣医生命科学大学)

ラボの資料室から見える畜大の風景。左手前の建物が研究棟Ⅰ号館、中央奥が講義棟と図書館

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