研究者を目指すあなたへ

私がこの研究を始めた理由

早川 徹(帯広畜産大学)CV

私が自己紹介の際によく使うのは「お肉の研究をしています」という言葉です。すると、多くの方が食いついてくださいます。そして、そのほとんどの方から「どんなお肉が美味しいか、とかですか?」と質問が返ってきます。食品を研究対象としていると、一般の方は「美味しさ」が第一の興味対象となるようです。残念なことに、私自身がいわゆるバカ舌の持ち主だということもあり(事実、嫌いな食べ物がありません)、食肉の「美味しさ」には興味がありません。お肉という動物資源をいかに有効に利用するか、ということが私の主な研究テーマです(過去のエッセイをご参照下さい)。

では、「お肉の研究がしたい」と考えるようになったのは、いつ頃か?というと、おそらく大学3年生ぐらいだったと思いますが、その当時は今取り組んでいる筋肉の生化学的な研究より、ハムやソーセージなどの加工分野の研究をやりたいと漠然考えていましたし、その前までは牛や馬などの繁殖関連の研究ができればと考えていました。勉強する(と言えるほどの真面目な学生ではありませんでしたが)につれ、興味対象がどんどん変わっていったように思います。ただ、食肉関連の研究がしたいと思うきっかけになったのは、恩師が担当していた講義でした。筋肉の収縮や死後硬直、熟成などのある種の自然現象が科学的にほぼ解明されていることに驚き、自分の中のもやもやしていた部分がスカっと晴れたようになったことを、今でも覚えています。中高生の頃は数学が得意科目でしたので「理屈で説明できる」ということが、自分の性に合っていたのでしょう。また、受験勉強では暗記科目と思って遠ざけていた生物や化学が「理屈」で成り立っていることにも驚いたのだと思います。

大学4年生になり、希望通りに食肉を扱う研究室に配属されました(周囲にかなりゴリ押ししていたようにも思いますが…)。次は卒論の研究テーマ選びです。この時点でもまだ加工分野に関する研究を志望していましたが、他のメンバーが早々とテーマを決めていき(ここでも何かしらの駆け引きがあったように思いますが忘れてしまいました)、私には二つのテーマが選択肢として残っていました。どちらにしようかしばらく悩んでいましたが、恩師のある言葉が決め手となりました。

「まだ世界で誰もやってないから」

この『世界で誰もやってない』という言葉の輝きに目がくらみ、そのテーマを選んだのですが、今、改めて考えるとこの業界において「誰もやってない」というのは至極当たり前のことで、上手く騙されたと思わざるを得ません。それでも、この言葉こそが、私が今取り組んでいる研究を始めたきっかけとなったのです。

以前にもエッセイで書いたように、筋肉のミオシンというのは100年以上前に発見されたタンパク質で、研究対象としては"超"がつくほどの古典的なものです。そのような誰でも知っているものを扱っているからこそ、食肉科学の分野では多くの研究者に興味を持っていただいていると思いますし、特に日本では私自身の名前も覚えていただいているのだと思います(実際に初対面の先生にも「あのMeat Science(雑誌名)の論文の?」と言われたことが何度かあります)。しかし、それは単にミオシンの研究をしているからではなく、ミオシンの「まだ誰もやっていない」新しいことについて研究しているからだと思います。

先生方と演奏中

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