シンポジウム
第15回若手企画シンポジウム(2016春・日獣大)
ランチョンセミナー 家畜におけるゲノム研究の「いま」と「これから」
- 開催日時:
- 2015年3月29日(火) 12:00〜13:00 (お昼休み)
- 開催場所:
- 日本獣医生命科学大学 E棟2階 第X会場
- 講演1:
- 「高密度SNP情報の家畜育種への応用」
- 演者1:
- 上本 吉伸(家畜改良センター)
- 講演2:
- 「BLUPとゲノミックBLUP ~知ったかぶるための直感的理解~」
- 演者2:
- 小野木 章雄(東京大学)
- 世話人:
- 西尾 元秀(農研機構)、中村 隼明(基生研)、江草 愛(日獣大)、白石 純一(日獣大)
- 協賛団体:
- 財団法人旗影会
ウシやブタのゲノムが解読されてから数年。家畜におけるゲノム研究は大きく進展しており、現在ではゲノム全体をほぼ等間隔に網羅する数万から数十万の1塩基多型(single nucleotide polymorphism; SNP)情報が利用できるようになってきました。現在では、このような大量のSNP情報を利用した研究が遺伝育種の分野で盛んに報告されています。しかし、分析手法を理解するためには統計の知識を要するものが多く、専門分野外の方には内容が理解しにくい側面があります。本ランチョンセミナーではゲノム研究の最前線で活躍する2名の若手研究者を講演者に迎え、家畜におけるゲノム研究についてそれぞれの視点から分かりやすくご解説頂きました。
上本先生には、ゲノムワイド相関解析(genome-wide association study; GWAS)についてご講演頂きました。GWASは観測値と個々のSNPとの関連を網羅的に解析し、関連のあったSNPの近傍に存在すると推測される原因遺伝子をリスト化していく遺伝子探索の手法です。はじめに数式でなく、簡単な図を用いてGWASの原理について簡単に説明された後、家畜改良センターにおける研究でGWASにより肉牛の枝肉形質や脂肪酸組成に関連するSNPが検出できたことをご解説頂きました。現在では、ゲノム編集により原因遺伝子の導入も容易になり、ますますゲノム情報を利用した研究が加速するものと期待されています。しかし、一方で、GWASは分析対象集団によって検出されるSNPが異なること、原因変異の効果が大きくないと関連のあるSNPが検出されにくい等の問題点があり、GWAS研究が始まった当初に期待されていたほど遺伝子探索が進んでいないことが分かりました。
小野木先生には、ゲノミックBLUP(GBLUP)法についてご講演頂きました。家畜育種の分野ではこれまで血縁情報を利用して個体の類似度を定義し、遺伝的能力評価を実施するBLUP法が主流でした。GBLUP法では血縁情報に代わってSNPの相同性に基づく遺伝的類似度を用いているため、これまで以上に精度の高い遺伝的能力評価が可能となっています。ご講演では、いくつかの数式とイメージ図を用いて、これらの類似度について直感的な理解を促すような解説をして頂きました。また、重回帰分析の文脈では、個体の遺伝的能力は個々のSNPの効果の総和とも捉えることができ、行列の式変形を通じて2つの解釈が数学的に互いに行き来できることもご紹介頂きました。これは育種学の研究者にとっても初めて聞く人も多かったと思います。
現在、SNPのみならず、転写産物や代謝産物を利用した各種オミクス解析により、遺伝子と観測値との関連だけでなく、その間のメカニズムについても研究が始まっています。今後ゲノム研究が遺伝育種の分野以外においても多様に展開していくことが予想される中、今回のお二人のご講演は様々な分野の方にとって良い刺激になったのではないでしょうか。
最後になりましたが、本シンポジウムの開催にあたり、協賛頂いた財団法人旗影会、ご尽力頂いた若手企画委員および関係者の皆様方に、心から感謝申し上げます。
文 西尾 元秀(農研機構)