研究紹介

「カラスを食べる」ことを研究にする上で感じた異分野連繋の大事さ

塚原 直樹(総合研究大学院大学)CV

2014年8月、「カラスを食べる」研究プロジェクトを採択していただきました。「カラスを食べる」ことを研究にしようと初めて思ったのは、修士課程の時なので、かれこれ10年越しの想いが通じた瞬間でした。

それは大学院の講義で、科研費の申請書を書いてみる、という課題の中で思いついた研究テーマでした。当時の私はカラスの鳴き声と発声器官に関する研究をテーマとしておりました。栄養学の講義ということもあり、栄養に関わることでテーマを考え、申請書を書くという課題であったことから、単純に栄養とカラスをくっつけて何か面白いテーマができないかと思い、「そうだ!カラスを食べるということをテーマにしちゃえ」という、至極単純な発想が始まりでした。

ここまで読まれた方は、カラスを食べるって、アナタ何言ってんの?と思われるかもしれません。「『カラスを食べる』ことを研究します」と話すと、理系研究者の多くは眉間に皺をよせます。この飽食の時代の日本において、なんでカラスを食べなきゃならんの?しかもそれを研究テーマにするって意味不明・・・。そんな心の声が聞こえる中、毎度心を強く保ち、次のように意義を説明しております。


塚原「カラスの肉って、実は鉄分とタウリンが豊富なんですよ。韓国では滋養強壮の漢方として食べられていたそうですし。 そんなカラスは有害捕獲され、ただ処分されている現実があるんです。せっかくだから有効利用しましょうよ。」

聞き手「いやいや安全性大丈夫?」

塚原「それをね、まず調べたいんですよ。」

聞き手「うーん・・・でも食べるなんてねえ(なんか気持ち悪いよ)」

面白いと言ってくださる方もいましたが、多くの方からはあまり共感を得られないばかりか、ちょっとアナタ大丈夫かと、なんだか気まずい空気になることもしばしばありました。ですが、自分でもよくわからない情熱を持ちつつ、科研費を申請できるようになったら絶対このテーマで申請しよう、と思い10年が経ちました。宇都宮大から総研大に移り、いよいよ自分で科研費を申請できるチャンス、カタカタカタカタ、タイピングはピアノのごとく快調なリズムをきざみ、得意のポンチ絵もバッチリ、こりゃ絶対通るでしょ!・・・・・・否!採択されないばかりか、後日の評価を見ると、評価点はひどいもんでした。

このテーマじゃ研究できないかなあと、不採択の結果にうちひしがれている頃、出会いがありました。それは文系研究者との出会いです。ある発表会の翌朝、二日酔い気味の頭でホテルの朝食のビュッフェのトレーを持ってふらふらしていると、民俗学の先生に「良かったら一緒に食べませんか」と声をかけていただきました。自然とお互いの研究の話になったのですが、「実はカラスを食べるということを研究にしたいと思っているんですよね」と、すっかり自信なさげに小さい声で話した私に対し、民俗学の先生は大きな声で「面白いね!」と眼を輝かせて聞いてくださいました。「これは今日ここに来て一番の収穫だよ」とまで言ってくださり、非常に嬉しい瞬間でした。また別の機会では、別の文系研究者にカラスを食べる研究について科研費で酷評されたことを話すと、「それはうちの分野に出せば絶対通るよ。」と言われ、次の研究費申請への自信を取り戻しました。ただ、意義付けには少し工夫すべきであると、以下の助言をいただきました。野生動物の中でも、食べることに最も抵抗を感じる動物のひとつであろうカラスの食資源化を成功させること(単に安全性の確認だけでなく、太陽の化身や勝利へと導く鳥、などのポジティブなイメージからブランディングをすることで、カラスを食べることへのハードルを下げること)が、他の野生動物の食資源としての利用に大きな波及効果をもたらす、という意義付けをすべし、との助言です。このアイディアは、私には思いつかなかったことですし、研究費を獲得する上で間違いなくキモになったものです。分野によって研究の価値や面白いと思うこと、発想がこうも違うのか、今まで狭い世界しか見ていなかったのかもしれないと、強く感じましたし、このプロジェクトを作り上げる上で、私の中の価値観は確実に変化しました。

私が獲得した研究費は総研大の学内公募です。都合良く、総研大には異分野連繋型の研究課題を支援する制度があります。今年度(平成26年度)、この学内公募に採択され、「カラスを食べる」研究プロジェクトをスタートさせることができました。文系研究者との出会いがなければ、それは叶わなかったでしょうし、また、研究を進める上で非常に大事な意義(なんの役に立つのか)についても、ここまで明快なものにはならなかったと思います。

文理融合、学際研究が強く求められている昨今ですが、私自身はこの「カラスを食べる」プロジェクトの立ち上げを通じて、それらの重要性を痛感しております。異分野が融合すると思いもしない化学反応が起こります。分野が細分化され、高度に専門化されている現在、ブレイクスルーを生み出す鍵は異分野連繋かもしれません。いつものニワトリ肉(専門分野)を食べるのもいいけど、たまにはカラス肉(異分野)に挑戦してみるのはいかがですか?本当にカラス肉を食べてみたいという奇特な方がいらっしゃいましたらご相談ください。

「ハシボソガラスの味噌漬けのソテー」

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