研究紹介
私の研究について
田中 哲弥(東京大学大学院)
皆さんは動物と言ったとき、どのような種類の動物を思い浮かべるでしょう。犬や猫などの伴侶動物?牛や豚などの経済動物?動物園や水族館などの展示動物?熊や狐などの野生動物を想像する人もいるでしょうか。
どのような動物であっても、人が産業として動物にかかわる時には必ずその個体数を制御する必要があります。豚のように肉を取るための動物であれば当然数が増えてもらえなければ困りますし、牛乳や卵もその動物が増える過程で得られるものです。また絶滅しそうな野生動物については、種の保存のために動物園などで積極的に数を増やすための試みがなされています。
一方で数が増えすぎて困ってしまう場合もあります。例えば猪や鹿、カラスなどは農作物を荒らす害獣として知られていますが、近年その個体数が非常に増えており特に農村部で大きな被害を出しています。また水族館などでは水槽などの飼育できる場所に限りがあるため、大型の動物が予定外に増えてしまうと飼育できなくなってしまうという問題も起こります。
しかし繁殖は動物の種の保存にとって重要な要素であることから、各動物種によって様々な戦略がとられており、種の間での違いが顕著な分野でもあります。そして人間が関わる動物種は多種多様であり、そのすべてにそれぞれ対応することは大変困難が付きまといます。そのため特に繁殖の中枢に近い、多くの種で共通したシステムを明らかにすることは極めて大きな意味を持ってきます。
繁殖をつかさどる中心の軸として、神経系とホルモンが重要な役割を果たしていることは以前より知られてきました。ですが脳などの神経の仕組みを解析することは難しく、現在まで繁殖の神経制御について完全には明らかにはされていません。
そこで私はこの繁殖の中枢制御を明らかにすることで、様々な動物種に通じる繁殖制御法を確立しようと研究を行っています。例えば単純な話では繁殖能を引き上げる働きを持つ大元の神経を同定できれば、その神経の働きを促進してやることでその動物を増やすことができようになりますし、神経の働きを抑制してやることでその動物の数を減らすこともできるようになります。どのような動物種でも効果のある繁殖制御法が確立することができれば、動物にかかわる産業において非常に大きな影響を与えることは間違いありません。
食糧問題や動物福祉問題、野生動物問題など、人間と動物との関係には常にいくつもの課題が存在してきました。これらの問題の解決法の一つとして、繁殖という切り口を有効に使えるよう日々研究を続けいきたいと考えています。