研究紹介
私が行ってきた研究
飯尾 恒(茨城県畜産センター 肉用牛研究所)CV
「畜産学」の研究と言ったらどのようなイメージがありますか?もともとの私のイメージは、より美味しいハム・ソーセージを作る方法や、より美味しい牛乳を白黒の牛から搾る方法を研究しているイメージでした。そこで、こんな研究テーマも畜産学にはあるんだよ、ということの一例として私が行ってきた研究テーマを紹介したいと思います。
大学に進学し、卒業論文を作製するために研究室に配属された私は、「同系統ラット間の社会的相互作用を利用した社会的敗北ストレスモデルの作製」という研究テーマを与えられました。なんだか分かりづらい言葉が並んでいますよね。簡単に言えば、ラット同士のイジメによって、イジメられたラットがうつ病のようになるモデルを作るということです。これだけを聞くと、ヒトの医学、薬理学に近いと思いませんか?私もそう思います(笑)。当時の私は配属先の研究室で行っていた「ラットに何かして行動変化を見ている」ということに惹かれて配属先を決めていたので、与えられたテーマの詳細は気になりませんでした。なんとかストレスモデル作製に成功し、研究を進めていくうちに、このストレスモデルの特徴である顕著な増体抑制に着目しました。増体や餌のロスが少ない「家畜の効率的な飼育」は畜産経営において重要な課題です。また、家畜にストレスを付加し続けると生産物の品質劣化や病気にかかりやすくなるというマイナス要因があり…あれ?いつの間にか畜産学っぽいテーマになっていましたね(笑)。研究の結果、ストレスにより脳がお腹いっぱいだよという指令を出し増体効率が低下していたことが分かりました。
ちなみに、ちゃんと家畜を使った研究も行っていました。牛や羊は草を食べて生きていますよね。でも彼らは自分一人だけでは草を消化できないんです。草は繊維が豊富ですが、繊維の多くは分子レベルで見るとお米の中のデンプンと同じ物質でできています。しかし、デンプンとつながり方が違うため、私達ヒトや牛、羊だけでは分解できないんです。しかし、4つも胃を持っている牛や羊は、最初の大きな胃の中にたくさんの微生物を飼っており、彼らが作る酵素のお陰で繊維を分解しています。ところがこの微生物、人工的に培養するのが難しく、全微生物中の10%程度しか培養することができません。そこで、この繊維を分解する酵素の特性を活かして、それらを回収して分析するテーマも同時に行っていました。興味がある方は、是非、セルラーゼとバイオエタノールについて調べてみてください。もしかすると、今後研究が進めばエネルギーの世界に畜産学が大貢献するかもしれませんよ!
だいぶ簡潔に書きましたが、対象が動物になっただけで医学に近いテーマも畜産学にはありますし、もちろん皆さんが畜産学でまずイメージする従来からあるテーマもあります。また、発想次第では畜産学とは全く関係ない分野にも応用できる発見も畜産学から生まれてくるかもしれません。これまで、私が行ってきた研究テーマを一例として紹介させていただきましたが、少しでも進路に悩んでいる学生の皆様の手助けになれば幸いです。