研究紹介

私のニワトリの研究

後藤 達彦(茨城大学)CV

私は、大学院時代まで、家畜(家禽)であるニワトリの遺伝学研究を行ってきた。今回は、ニワトリの遺伝について書いてみようと思う。

家禽であるニワトリは、赤色野鶏を中心とした野鶏(野生動物)から生まれたと考えられている。赤色野鶏は、一年に十数個の卵を産み、ヒヨコを育てる。そんな野生動物から、毎日のように卵を産むニワトリが生まれてきたわけだ。この背景には、長い年月に渡ってヒトが行ってきた選抜の影響がある。野鶏を飼い馴らして、繁殖させていく過程で、より多くの卵を産む個体を選んで交配し、次の世代を得る。その世代においても、また、より多くの卵を産む個体を選び交配する。…ということを長い年月の間、繰り返してきた結果、十数個しか卵を産まなかったニワトリが、毎日のように卵を産むようになった。コレには、親から子へと、特徴が受け継がれていくという「遺伝」が深く関わっている。

遺伝と言えば、みなさんはメンデルの法則を思い浮かべるかもしれない。エンドウの種子にしわのあるものとないもの(親)を交配すると、しわのないもの(子)が生まれる。このように親の特徴は、原因となる遺伝子の型情報として、子に受け継がれていく。つまり、父方から種子にしわを出す遺伝子の型を受け継ぎ、母方からしわを出さない遺伝子の型を受け継ぐと、しわのない特徴を示すといった具合である。ニワトリにおいても、羽毛色のパターンなどの特徴は、1つの遺伝子の型情報によって、決定されていることが分かっている。

一方、卵を産む量(産卵数)に関与している遺伝子は、1つや2つではなく、100あるいは1,000を超えるような「多数の遺伝子のセット」であると考えられている。それら多数の遺伝子それぞれには、様々な型が存在する。つまり、あるニワトリが受け継ぐ、多数の遺伝子のセットには、相当な数の組み合わせがある。この組み合わせの違いが、卵の産みの善し悪しに関する能力を決定しているというわけだ。これまで長い年月の間、人為的に選抜されてきた結果、ニワトリの産卵数に関与する多数の遺伝子のセットは、一年に十数個の卵を産むような組み合わせから、毎日のように卵を産むような組み合わせになってきたと言える。

今現在のところ、この多数の遺伝子のセットには、いったいどんな遺伝子が含まれているのか、ほとんど分かっていない。私は、大学院時代より、ニワトリの卵に関与する多数の遺伝子のセットを探し出そうとする研究に携わってきた。このような多数の遺伝子のセットの中から、その1つ1つを見つけ出していくことは、我々にとって必要不可欠な食料の生産性に関する遺伝的なメカニズムの解明に繋がっていくことである。この遺伝的メカニズムが少しでも明らかになれば、それを最大限に利用して、様々な環境に適応できる新たなニワトリを生み出すことが可能になるだろう。さらに、このようなニワトリの特徴を明らかにしていく遺伝学研究は、野生動物からどのようにニワトリが生まれてきたのか?という家畜化の謎を解く上で、重要な発見をもたらすかもしれない。

以上のように、ヒトが生きていく上で必須の「食」に関わる研究を行い、その成果を現場に応用することのできる『畜産学』に、みなさん、是非とも触れてみていただきたい。

日本鶏のつがい

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