研究紹介
私の研究はこんなことに役立っています
松田 二子(名古屋大学)
私は畜産学のうち繁殖学分野の研究をしています。家畜の肉を生産するためには、メスを妊娠させて子を増やすことが必要ですし、メスが乳を出すためにも、子を産ませる必要があります。効率的な家畜の繁殖は、効率的な畜産物の生産に直結しています。
日本ではウシの繁殖に人工授精が用いられますが、その成功率の低下が深刻な問題となっています。成功率低下の主な原因として、メスの性周期が正常に回らないことが挙げられます。ウシは、約21日の間に卵巣で卵子が発育し排卵される性周期を繰り返していますが、排卵前後の短い期間に卵子が精子と出会わなければ妊娠できません。卵子の発育が停止したり、排卵が予測より遅れたりすれば、人工授精を行っても妊娠には至らないのです。
では、乱れた性周期を正常に戻すにはどうすればよいでしょうか?それにはまず、性周期がどのように調節されているかを詳しく知る必要があります。性周期中の卵巣での卵子の発育と排卵は、脳の視床下部と下垂体が分泌するホルモンによって調節されており、私は視床下部の神経によるホルモン分泌メカニズムと卵子の発育メカニズムを分子レベルで解明するべく、研究を進めています。性周期を調節する鍵となる因子が見つかれば、その機能を利用して新たな治療法を開発することが可能となります。
効果的な治療法によりウシの人工授精の成功率が高まれば、低いコストで牛肉や牛乳を生産できるようになります。その結果、畜産農家の収入が増えたり、畜産物の価格が下がったりすると期待されます。さらに、家畜の繁殖効率が高まれば、現在より少ない頭数の家畜で十分な量の畜産物を生産できるようになります。ウシのあい気(げっぷ)は温室効果ガスのひとつであるメタンを多く含んでおり、地球上のウシの数を減らせれば、地球温暖化を抑制できるかもしれません。