研究紹介

私の研究はこんなことに役立っています

塚原 直樹(総合研究大学院大学)CV

出勤時間。ちらかった生ごみ。ガサガサと音のする方へ目をやると、動きを停止する黒い物体。近づくと、ばさばさばさとそれが宙を横切る。みなさんが一度は経験したことがある光景ではないでしょうか?言わずもがなですが、黒い物体とはカラス。それが私の研究対象としている動物です。生ごみを荒らすカラスをなんとかしてくれー、という方は多いと思いますが、農家さんにとっては農作物を食い荒らすにっくき動物ですし、電力会社さんにとっては送電トラブルを引き起こすやっかいな動物で、この他、様々な場所で人間との間に多くの摩擦を抱えています。カラスを寄せ付けないために、様々な方法が考えられてきました。伝統的な方法としてはカカシが思い浮かびますが、その他にタカの目を模した物やカラスの死体を模した物、キラキラ光る物、爆発音を出す物など、バラエティーに富んでいます。しかしながら、初めは効果があるのですが、カラスはすぐに慣れてしまいます。近くの電柱の上から、ばかにしたような鳴き声で鳴いているカラスを見て、悔しい思いをした方も多いのではないでしょうか。

ところで、カラスってどんな声で鳴くか知ってますか?「カー」だけじゃないんですよ、カラスの声って。これはハシブトガラスという種類のカラスの話ですが、「カー」だったり、「アー」だったり、「グワー」なんてのもあったり、よく注意して聞いてみると色々な鳴き声があることがわかります。特殊なソフトを使って、鳴き声をソナグラムという図にすると、音の特徴を視覚化できますが、私は1年間以上フィールドで集めた鳴き声をソナグラムにして、その音響的特徴を比較しました。すると、ハシブトガラスは少なくとも41種の鳴き声を持つことがわかったのです。これでも一部のはずですので、カラスは非常に多くの鳴き声を持っているようです。

この豊富な鳴き声を使って、いったいカラス達はどんな会話をしているのでしょう?カラスは井戸端会議をするお姉さま方同様、きっとおしゃべりな動物に違いありません。そんなおしゃべりな習性を逆手にとれば、カラスを特定の場所から遠ざけることができるかもしれません。そのような発想で私はカラスを鳴き声で操れないか、と考えました。

1年間カラスを観察していると、私がカラスに近づいたときに同じような鳴き声を発することがわかりました。これはおそらく私に対して警戒している鳴き声に違いないと思い、その声を収録した後、別の日に、カラスの群れに向かって再生してみました。すると、カラスの群れがいっせいに飛び立ったのです。これを使えば、きっとカラスを追い払うことができる!と私は小躍りし、その夜は気持ちよく酒を飲みました。しかしながら、また別の日にカラスの群れに声を聴かせると、最初の数回はその場から離れるものの、回数を重ねると全く動じなくなり、肩を落とした私は早々と帰宅し、しょんぼり酒を飲みました。やはり、一筋縄にはいかないカラス。連日カラスの鳴き声の解析をやっているその頃の私の頭には、聞こえないはずのカラスの鳴き声が延々とリピートされていましたが、これが二日酔いの頭には相当こたえました。よく聞く、私が近づいたときに発せられる警戒の声、これが頭の中で延々と流れていた時、ふと、気づきました。単純なリピートではなく、それにはストーリーがあり、鳴き声に変化があったのです。これだー!と私は熱いシャワーで頭を覚まし、研究室でさっそくストーリー仕立てのCDを作りました。早速それをカラスの群れに何度か再生すると、今度はその場に戻ってこなくなりました。

細かい話は省きますが、その後、改良を重ね、宇都宮大学の知的財産関係のコーディネーターの方々のご協力の下、特許化されました。さらに、㈱ハイアテックさんとの共同開発から、製品化することができ、多くのカラスお困り現場でその効果を発揮しております。ただ、やはりカラス対策は単純にはいかないようで、この製品でも効果がみられない状況もあります。現在、㈱ハイアテックさんとともに日々改良を続けており、より効果が期待できる強力バージョンを皆様のもとへお届けできる日も近いかもしれません。

カラスと対策グッズと湘南の海

サイトポリシー

当サイトは公益社団法人日本畜産学会若手企画委員会のwebサイトです。当サイトの著作権は公益社団法人日本畜産学会若手企画委員会にあります。
サイトの内容を無断で複写・複製することはできません。リンクはフリーです。