研究紹介

私の研究はこんなことに役立っています

江草 愛(日本獣医生命科学大学)CV

今回のテーマは「私の研究はこんなことに役立っています」。・・・しかし、私自身は偉そうなことを語れる立場にありません。そこで、これから益々重要性が高まり、且つ「畜産(物)」がおおいにその魅力を発揮できると思われる内容について、ご紹介させていただきます。

皆さんはPEM(Protein Energy Malnutrition)と呼ばれる栄養状態をご存じでしょうか?食事由来のタンパク質や総エネルギー量が不足している状態、いわゆる栄養失調を指します。内戦や干ばつで充分な栄養が取れないために、手足が痩せ細り、お腹が風船のように膨れている子供達の写真をご覧になったことがある方も多いと思います(これはタンパク質欠乏から低アルブミン血症を引き起こした状態です。大学生位の皆さんが丁度生まれた頃、アジア・オセアニア・アフリカ・ラテンアメリカの発展途上国では5歳以下の子供達の約43%(2.3億人)が栄養不良から発育障害に陥っていました(Bulletin of the World Health Organization, 71, 703-712(1993))。物質的に豊かな国に生まれ育った自分には関係のない話・・・、と思われる方もいるかもしれません。しかし、飽食と言われる日本においても、PEMが深刻な問題になりつつあります。2009年の厚生労働省補助金事業の報告によると調査した65歳以上の高齢者約2000人の内、約4%に「栄養改善」が必要であったとされています。お年寄りになると食欲が落ち、動くのも億劫なため、朝は「コンビニおにぎり」、昼は「うどん」、夜は「お茶漬け」・・・、と炭水化物中心の偏った栄養状態となり、タンパク質やエネルギー不足のPEMを引き起こすケースがあるようです。

私達は恒常性を維持するために、体重1kgあたり約1gのタンパク質の摂取を毎日必要としています。摂取されたタンパク質は体の構成や熱産生に使用され、凡そ60gが窒素代謝産物として排泄されています。つまり、外からタンパク質を補充しない限り、体タンパク質が分解され続けて正常な生命活動を維持することが出来なくなります。タンパク質の欠乏は骨格筋の委縮や脆弱化から歩行・姿勢維持の困難(寝たきり)、免疫力の低下から感染症の罹患率増加、精神的意欲(やる気)の喪失を引き起こし、生活の質(QOL;Quality of life)を低下させます。また、医療費の増大など社会的問題も大きく関与してきます。日本はこれから超高齢化社会を迎えます。先ほど述べた高齢者の4%が低栄養という状況も母集団が増えれば、問題の重要性は容易に推し量れるでしょう。(内閣府の報告によると、平成25年で4人に1人、平成47年では3人に1人が65歳以上と推計されています)。

では、何を食べるのがPEMの予防と改善には効果的なのでしょうか。答えは、勿論、動物性タンパク質を豊富に含む畜産物(乳・卵・肉)です。私達が行った実験では、畜産物由来のタンパク質は植物性のタンパク質より肝臓の機能を戻す点で優れていることが明らかとなっています。特に、畜産物はエネルギー代謝に関与するほか、認知機能を改善するビタミンB群を多く含みますので、お年寄りはもちろん、しっかり勉強して明日の世界を担っていただきたい高校生や大学生にも是非食べていただきたい食材だと思います。我々の健康的な生活の維持に欠かせない「畜産(物)」について、一緒に研究してみませんか?

(そう言えば、先日80歳の最高齢でエベレスト登頂を果たした三浦雄一郎さんは肉好きで大きなステーキをペロリと平らげるとか。高齢でもイキイキされている方には積極的にタンパク質を摂取している方が多い気がします。)

タンパク質を美味しく摂取して、健康な体を維持しましょう!

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