研究者を目指すあなたへ

やりたいことが職業になると;雑感

鈴木 裕(北海道大学)CV
2023年11月

皆さん、いま取り組んでいる研究室やテーマはどのように決めましたか?私は希望者数の多い研究室に行きたくないという理由で決めた意識の低い学生でした(笑)。そもそも高校生のときには人工筋肉を作りたいと思って、受験科目は化学と物理を選びました。結果的に入った農学部ではそのような研究分野はなかったので、次に有機化学に興味がわきました。その後、色々と授業を受けるうちに分子生物学に最も興味を持ちましたが、当時部活ばかりしていて成績は振るわず、なんか色々できそうという理由で比較的空きのあった動物科学系を選びました。というと面倒を見てくれた先生たちに大変失礼ですが。。。

その後、縁あって博士課程まで同じ所で進みました。いまは研究者をしていますが、その選択に後悔はありません。もともと出自的にも畜産業に全く関係ありませんでしたが、なぜ研究者を目指すようになったのか?おそらく、未知のメカニズムを明らかにするという基礎研究が純粋に楽しいと感じられたのが根本だと思います。いまになって考えると、このような単純さが自分の特徴なのだと思います。いまは、これに加えて自分の興味(=研究)が、どんな形であれ、少しでも世の中の役に立てばいいなと思っています。

研究は“コスパ”が悪い行為です。つぎ込んだものが必ずしも返って来ない。それどころか返ってくればラッキーかもしれません。私のような単純な人間でも、しょっちゅう嫌になります。もちろん、税金が使われているため結果は求められますし、頑張ったけど何も出ませんでしたとはなりたくないです。一方で、研究の良いところは知識の集積に参加できるところです。どんな小さな進歩であれ、それは科学にとってプラスになることですし、いま自分が行っている研究は多かれ少なかれ世界初のことです。うまくいった暁には、誰にも分からなかったことを知ることができる。それに、研究というのは問題解決プロセスを習得するのにうってつけの場だと思います。研究目標というアウトプットに向けて、さまざまな知識やスキルを取捨選択してインプットする。その過程では周囲とのコミュニケーションや調整、あるいは成果の発信も欠かせません。必要に応じて身につけたインプットは、テキストだけで勉強したものと違って、血肉になるものです。卒論テーマは社会では役に立たないと昔から言われます。私はたまたま学生からの研究がそのまま職業になりました。しかし、理系学生が卒論研究を求められるのは、この問題解決プロセスのエッセンスを学ぶためにあるんですね。当たり前すぎて誰も言いませんが、効率が求められる世の中で改めて念頭に置きたいことだと思います。

話が飛びました。分子生物学をやりたかった私としては、結果選んだ生理学がそんなに外れていなかったのと、それを面白いと思える単純さがあったからだと思います。また、それを認めてくれた指導教員がいたのも大きいですね。国内・海外含め様々な人と出会えたから、いまもどうにか研究者を続けているのだと思います。最近の大学生を見ていると、学業、就活、プライベートなどで求められることが多くて大変だなと感じています。そんなストレスもあってか、残念なことに学業が続けられないケースが増えてきている気がします。適度に悩んで、あとはやってみる。最短経路では深みが出ない(と、かのイチローが言っていました)。もちろん健康を大きく損なうものであれば止めるべきですが。

私の場合、博士課程まではある意味盲信的に研究ができていましたが、職業としてからはそうもいかなくなってきました。大学では多様な業務が要求され、目標を見失いそうにもなります。この辺はまだ自分の中でもどうすべきか模索中です。最近、某プロゲーマーの本を読みましたが、自分の中のどんなに小さな成長でも、自分自身が気づいてあげる、という言葉が沁みました。周囲からの評価も大事ですが、自分を評価してあげられるのは自分なのだと気づきました。また、いままでは実験も全部自分でどうにかしようともがいていましたが、最近は学生さんの力に頼り、その成長を嬉しく思うようになったのも、教員になってからの変化です。

研究室、職場など環境が変われば雰囲気やルール、目標が変わります。その中で安定して結果を出すためには、自分の軸となるものを見つけることなのだと思います。少し肩の力を抜くのも重要かなと思って、研究業を続けています。

雨上がりの隣県山道にて

サイトポリシー

当サイトは公益社団法人日本畜産学会若手企画委員会のwebサイトです。当サイトの著作権は公益社団法人日本畜産学会若手企画委員会にあります。
サイトの内容を無断で複写・複製することはできません。リンクはフリーです。