研究者を目指すあなたへ
現在行っている研究と学生の方々へのメッセージ
長澤 裕哉(農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所)
2016年2月
初めまして。私は農研機構・動物衛生研究所で牛の乳房炎に対する粘膜免疫誘導型ワクチンの開発に関する研究をしています。牛の乳房炎という病気は酪農家さんの間では、知らない人はいないくらい有名で、半ば発症するものだと割り切られている疾病です。現に、北海道の農家さんは乳房炎を発症しても家畜保健所に届出を出すことはありません。届出を出していたら、家畜保健所の方々が他の疾病に手が回らないくらい多数の疾病が報告されてしまうからです。それほど常態化し経済損失も著しい疾病が乳房炎なのですが、完璧に防除や治療する方法はありません。乳房炎は、細菌などが乳房に侵入することで発症するため治療法として抗生物質が有効ですが、耐性菌の出現リスクを伴うため、他の防除法が求められています。そこで私は、抗生物質に頼らない乳房炎に対する粘膜誘導型ワクチンの開発という研究を行っています。ここでは、様々な大学関係者や研究機関が行ってきた新しい知見を元に、実際にワクチンが乳房炎防除に対して効果があるかどうか研究しておりとても楽しい毎日を過ごしています。まだまだ未熟で上手くいかないことも多いですが。
私は、まだ今年の3月に大学院を修了したばかりで分からないことが多く、同じ研究チームの仲間たちに迷惑をかけることばかりです。しかし、研究チームのリーダーの口癖である「農家さんの笑顔のために!」を実践できるように日々精進しております。このエッセイは、これから博士課程や研究者を志す若い学生たちに向けてメッセージを送ることも趣旨に入っていると伺っています。私も若手でまだまだ偉そうなことを言える立場ではありませんが、「出口の見える研究」をすることを学生の方々へのメッセージとして送らせて頂きます。
私は学生時代にある先輩から言われた言葉として、「研究は独りよがりじゃ駄目だよ」があります。続けざまに、「やっている研究が、何のために、どのように生かせるかを考えなさい」と言われ、強く記憶に残りました(酔っ払いながら、ケンカ腰に、もうちょっと汚い言葉で言われたのもありますが)。私は研究に没頭して、視点が狭くなり、自分の研究がどこに向かっているのか分からなくなり迷走してしまうことが多々ありました。きっと、研究者なら誰にでもあることだと思います。きっと、この言葉をかけてくれた先輩も私が迷走しないように言ってくれたのだと思います。また、「何のために、どのように生かすか」を意識していると、不思議と研究の結果も安定してきたので、その先輩には感謝しています。学生時代も今も"農学"を専攻してきた私の研究の出口は、「農家さんの笑顔」に尽きると考えています。また最近、獣医さんとも良く仕事を共にするのですが、彼らも最終的なゴールは同じ「農家さんの笑顔」であることを強く感じます。産業動物を扱う研究を行っているということは、きっとそういうことなのだと思います。
学生の皆様、これからも「出口の見える研究」をして「農家さんの笑顔」を増やしていって下さい。私も頑張ります。
推薦:高橋 秀之(九州大学)