研究者を目指すあなたへ
研究者のイメージは?
北口公司(岐阜大学)
研究者の仕事の一つは,研究成果をアウトプットすることです。研究成果を伝える相手は,同業者である場合もあれば,専門を異にする科学者である場合もあり,論文や学会発表などがそのためのメディアとなるでしょう。さらには,学生への講義や啓蒙活動の一環として一般市民に研究の背景や成果を広める公開講座やオープンラボなどもアウトプットの一形態でしょう。専門家以外に研究の内容を伝えることは,同業者に研究内容を発表することよりもはるかに難しく,正確に内容が伝わらずに歯痒い思いをすることもあります。その際に,卑近な例を挙げて説明することが奏功する場合もあります。私は現在,免疫細胞の機能を調節する食品成分の研究を行っており,免疫学の概念を学生に説明することがありますが,正(負)の選択やMHC拘束性,クローン選択説などの難しい概念やCD番号に代表される免疫学特有の専門用語が多く,初学者には,免疫学はとっつきにくい分野であるようです。細胞を擬人化して説明したり,分子の役割を車のアクセルやブレーキに例えたりと,アナロジーを駆使して免疫応答を説明しています。
さて,研究者の生態も一般人や学生にとっては,免疫学と同じくらい謎に満ちているようです。以下は,研究者という職業がアナロジーで表現された時の体験です。
学生と雑談していた時に,ネイチャー,サイエンス,セルに論文が受理されることの凄さがよく分からない,どのくらい凄いの?という主旨の質問を受けました。インパクトファクターの話や,投稿した翌日(数時間後?)にはリジェクトのメールが返ってくることなど,掲載の難易度が如何に高いかを説明しましたが,いまいち納得してはもらえませんでした。そこで,漫画が大好きなその学生に,「ネイチャー,サイエンス,セルに論文が載る研究者は,ジャ○プ,マ△ジン,サ□デーに連載が決まる漫画家ぐらい凄いんやでっ!」と説明すると,大いに納得してもらえました。
私がポスドクだった頃,高校の同級生と近況を語り合って居た時,会社員をしている同級生には,好きな研究をして給料がもらえるポスドクという立場が羨ましく見えた様でした。給料は年棒制でボーナスは出ないことや年度毎に契約の更新があり,ポスドクにも大変な側面があることを伝えましたが,返ってきた言葉は「へぇー,プロ野球選手みたいでかっこええやん。」でした。
研究者の生態の側面が,別の職業に例えられていますが,実際に研究者という職業は,プロ野球選手や売れっ子漫画家のように華やかなものなのでしょうか?昨年,ある企業が実施したアンケートでは,小学生のなりたい職業の上位に科学者・研究者がランクインしていることから,研究者は実は格好いい職業として子供達の目に映っているのかもしれません。iPS細胞の開発で山中伸弥教授のノーベル賞受賞が決定し,大々的に報道されたことも,研究者のイメージを向上させた一因かと思います。将来,山中教授のようなスター研究者が,アニマルサイエンス出身者(自分も含めて)の中からも輩出されることを切に願っています。
推薦:友永 省三(京都大学)