研究者を目指すあなたへ

ポスドク問題

新村 毅(基礎生物学研究所)CV

私は、博士号を早期取得した後、日本学術振興会の特別研究員PDとして4年間のポスドク時代を経て、今月から特任助教になることができました。このように書くと、順風満帆で何の悩みもなかったように思われるのですが、ポスドク時代の4年間は心が折れかけるくらい精神的に追い込まれたというのが事実です。ここでは、ポスドク問題への言及ではなく、私のポスドク時代を書き留めておく場としたいと思います。

ポスドク問題というのは、博士号取得者を増やすという国の政策が発端となったものです。この目標は、十二分に達成され、日本の博士号取得者は著しく増加しました。しかしながら、その後、大学教員になれる人数も増えるというわけではありません。その結果、ポスドクが溢れかえってしまったというのが、ポスドク問題です。

博士課程への進学を悩んでいる学生に私が聞くことは、「研究に人生を捧げることができるか?」ということだけです。少なくとも私は、そのくらいの覚悟がないと第一線で活躍する研究者にはなれないと思っています。そのことを自分に言い聞かせるように、大学院生の時は、死ぬ気で実験をして誰よりも多く論文を書いていました。ポスドク問題は、その頃からありました。確かに、大学教員になれる人数は増えているわけではないのですが、なれる人はいるわけです。誰よりも業績をあげていればなれないはずはない、と私は思っていました。

しかしながら、現実は厳しいものでした。大学教員の公募で落選を続けました。落選が続くと、誰よりも論文を書いたけど、意味があったのかな?とか、信じてやってきたことは間違っていたのかな?とか、今やっている実験ですら意味あるのかな?と、ふと思うことがあります。そのような思いを払拭するように、さらに研究に没頭するようにしていましたが、特別研究員の期限が切れる年になっても職は決まらず、精神的に追い込まれました。そのような私を励まし続けてくれたのは、学生時代とポスドク時代の指導教員達、そして他ならぬ私の妻でした。

大学教員の職を得るために必要なものは、「実力と運と人脈」だと私は思っています。私が大学教員の職を得ることができたのも、この3つが揃ったからでした。苦しみながらも、最終的に非常に恵まれた環境に来ることができたのは幸運なことでした。しかしながら、これに満足することなく、第一線で活躍する研究者になるため、茨の道を選び続けて、死力を尽くそうと今は思っています。

繰り返しになりますが、博士課程への進学を考えている皆さん、「研究に人生を捧げることができるか?」という質問に、どのように答えますか?

留学先の大学本部付近の大学関係建造物(事務系)

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