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ポスドク問題

後藤 達彦(茨城大学)CV

私は、国立遺伝学研究所の博士研究員(ポスドク; postdoc)から、2013年5月1日付けで、茨城大学農学部に異動してきました。今回は、ポスドク問題について、今現在の自分が思っていることを書いてみようと思います。

まず初めに、博士号を取得するまでの道のりを簡単に紹介したいと思います。高校を卒業後、一般の四年制大学の農学部に進学することを例に書いてみます。大学進学後、学部の4年間、農学の専門分野を学び、卒業論文をまとめると「学士号(Bachelor's degree)がもらえます。その後、大学院に進学し、さらに2年間、専門分野を学び修士論文をまとめると、「修士号(Master's degree)が得られます。その後、またさらに3年間、専門分野を学び研究を行って博士論文をまとめると、「博士号(Doctoral degree)を得ることができます。この他の方法として、博士号取得前に研究所等に勤務した場合でも、研究論文を数本書き上げて、それらを博士論文にまとめ、大学に受理されると、博士号が得られます。

上記のような過程を経て、博士号を取得した後に、任期付きの研究員として働く人たちのことを、ポスドクと言います。今回のテーマである「ポスドク問題」は、高学歴ワーキングプアとも称されるように、博士号取得者がなかなか安定した職に就けないといった、一種の社会問題のことです。この背景には、日本において、1990年代に始まった政策による、博士号取得者の急激な増加があります。この増加の勢いに対して、欧米で見られるような社会全体としての良い意味での博士人材の活用が、現在の日本ではあまり進んでいないため、博士号取得者が就くべき職の総数が十分ではありません。このアンバランスな状況が一つの原因となって、現在のポスドク問題が生じています。

このような状況を解決の方向に導くためには、日本の社会全体で、博士人材を上手く活用するようなシステムに移行していくことや、博士号取得のためのハードルを高く設定すること等のような、政策面での改善を進めていくことは重要なことであると思います。しかしながら、現在の私のような立場(任期付きの身分)でものを考えると、現実問題として、現行のシステムの中で、どう対処していくのかを考えていかなければなりません。同じような立場の博士人材の多くは、近い将来、大学や公的な研究所(アカデミックなポジション)で、任期なしの職(定年までの身分が保証されている職)に就きたいと考えていると思います。そのような沢山の人々が、いつ募集があるのか分からないような数の限られた職を得ようと競い合っている状況にあるために、なかなか安定した職に就けないといった厳しいことになっています。ここで、サッカーのようなプロスポーツに目を向けてみますと、そこでも同様なことが存在しており、結果重視の実力主義といったところで、毎年毎年が勝負の年という強い意識をもち続けて、勝ち抜いていけるものだけが、プロとして生き残っていけるという厳しさがあると思います。このように、世の中を広く見渡せば似たような境遇は沢山あるので、博士人材は、プロスポーツの世界と同様にものを考えていき、プロの研究者として生きていくために、さらに力をつけていかなければならないと思います。つまり、日本の社会のシステムを改善していくことに先駆けて、博士人材自身の意識を高めていくことがさらに重要なことなのではないかと思っております。

ポスドクが大量に存在して、任期なしの職になかなか就けないという状況は、一見すると悪いことしかないようでありますが、決してそうではないと考えています。特に、若い時期には、どのような職であっても、それまでに自分が見たこともないような世界に思い切って飛び込んでいって、新しいものを学んでいくという姿勢はとても大事なことです。このように、今ある現状を前向きに捉えて、毎年毎年チャレンジを続けていき、一人の人間としての幅を広げていくことは、やがて訪れるであろう、自分の将来の様々な段階において、必ず役に立つ。そして、将来、安定した職に就くことができたら、それはもちろんアカデミックなポジションである必要は全くなくて、最も重要なことは、自分自身が、世のため人のために役に立てるような仕事を見つけ出し、それに最大限の努力を注いでいくことであると思います。私も近い将来、そのような生涯にわたる仕事に出逢えるように、日々精進していきたいと考えております。

茨城大学農学部(阿見キャンパス)の風景

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