研究者を目指すあなたへ

ポスドク問題

塚原 直樹(総合研究大学院大学)CV

つい先日までポスドクの身分であった私がこのテーマについて語らないわけにはいかないと思うので、いい機会でもあるし、何かの役に立てばと思い、自身の体験と考えを述べさせていただこうと思う。

博士号を取得後、5年間の特任研究員を経て、現職の助教に着任した。ラッキーな事に、履歴書に空白ができることもなく、私自身がポスドク問題で苦しんだことは無い。強いて苦労したことをあげるならば、結婚の時期をどうするか、などの人生設計である。私自身が非常に楽観的なせいか、職はきっと見つかるだろうし、職がなければ、アルバイトでもなんでもして、食っていけばいい、と考えていた。しかし、このような考えは人生を共に歩む妻からしたらたまったもんじゃないようである。なんとか騙し、じゃなくて、説得し、どうにか結婚生活をおくっているが、現職の就職活動を行っていた2012年度は、妻からのプレッシャー、もとい、応援は相当に熱が入っていた。そのかいあってか、どうにか現職に就くことができたので、妻に感謝せねば罰があたるといったところか。ただ、現職も最長5年の任期付きであることから、これまた家族計画は行き当たりばったりで、とはいかないのかもしれない。

さて、様々なところで議論されているこの制度であるが、悪い点ばかりなのであろうか?私はあえてこのポスドク制度の利点を挙げたいと思う。お前はうまくいっているからそんなことを言うんだ、と怒られてしまうかもしれないが、その通りで、うまくいっているので、この制度の良い面をあえて言わせていただきたい。

職に任期がついていることは、私は二つの利点があると思う。

ひとつは、限られた時間が業績をあげることを後押ししてくれることである。研究者の業績とは、自分の研究成果を論文として専門誌に発表することとニアリーイコールだろう。しかし、一部の優秀な方を除いたら、研究結果を論文にする作業はとても大変で、産みの苦しみをあじわう(少なくとも私は。血尿がでたこともあるくらい…)。また、多くの場合、論文執筆は期限が無いため、ついつい後回しにしがちである。ところが、次のポジションをゲットするために、どうにかして業績をだそうとするので、つらい仕事も頑張ろう、という気持ちになるわけである。成果をあげなければ食っていけなくなる、これはものすごいプレッシャーであるが、私のように怠けた呑気な人間にはかえってありがたい。

職が任期付であることの利点のもうひとつは、別の世界に飛び込んでいけるチャンスが訪れることである…それも強制的に。私は宇都宮大学でカラスの鳴き声と視覚に関する研究をポスドクとして行ってきた。現職は総合研究大学院大学の学融合推進センターの助教職で、メインの仕事は、他の先生方の学際研究をサポートするコーディネーター的な業務である。研究活動は認められているものの、本業はアカデミックポジションからは少し離れてしまった。ただ、このポジションを選んだのは決してネガティブな理由ではないことを強く申し上げておきたい。現職の公募を見た時は、思わず胸がときめいてしまったほどである。職を変えたことで、人脈は加速度的に増えている。また、視野は、次元を越えたような感覚に陥るほど、自分では広がっていると感じている。私の場合、11年間も同じ研究室にいたことから余計にそう感じるのかもしれない。

悪いイメージのつきまとうポスドク問題であるが、このように、ラッキーでどうにかなってしまった私のような人間は良い面も感じている、ということを申し上げておきたい。茨の道であることは間違いないが、考えようによっては、この崖っぷちでヒリヒリ感を味わいながらの生き方も面白いものであるので、これを読んだ学生の皆さんも臆せずこの世界に飛び込んでほしい。

ここでは書けないことも多々あるので、もっと詳しく聞きたい方は「塚原直樹」までコンタクトを。お酒で舌を滑らかにして語り合いましょう。

総研大の近くの海岸にて

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