研究者を目指すあなたへ

私がこの研究を始めた理由

今井 早希(名古屋大学)CV

現在、私は、行動を制御する遺伝子の機能解析を行なっています。

行動はとても複雑です。たくさんの遺伝子が行動をコントロールしていますが、それらがいつ、どこで、どのように働くのか?は明らかにされていません。当研究室では、マウスを用いた行動学的及び遺伝学的解析により、“行動的絶望”という諦め行動を制御する遺伝子Usp46を特定することに成功しました。しかし、Usp46の詳細は不明です。そこで、遺伝子と行動の関連を解明するため、私は日々研究しています。行動をコントロールする原因遺伝子や経路が分かれば、うつ病をはじめとする精神疾患の創薬に発展するだけでなく、育児放棄など社会問題の改善法の確立に貢献できるなど、ヒトと動物における様々な分野への貢献が期待されます。

今回、私がこの研究テーマを選んだ経緯をお話しさせて頂きたいと思います。

生物好きの父の影響もあり、私はたくさんの生物とふれ合いながら育ちました。セミの解剖、カナヘビの飼育、ハムスターの交配に乗馬。もちろん動物もたくさん飼っていました。そのため、獣医さんと接する機会が多く、物心がつく頃には、獣医師になるのが夢でした。しかし、中学高校時代、バンドブーム(GLAY!)にどっぷりハマり、どんどん授業に興味が持てなくなり、気付けば勉強嫌いになっていました。その結果、大学受験は惨憺たるものでした。進学先、どうしよう…。興味が持てる分野でないと全く勉強しないことは自分が一番よく知っていたので、少しでも動物に関われる進学先を、と選択したのが農学部でした。

大学入学当初、私は、獣医学部へ進学できなかったこと、大阪から九州の田舎へ移ることのショックが大きく、失意のどん底でした。しかし、この挫折が人生のターニングポイントになったのです。私は、「ここで腐ったら負け!これは私の人生じゃない!」と、一念発起。遅ればせながらも、人生で初めて本気で勉学に励みました。講義内容は大好きな動物に関係していたため、興味を持って聴講できました。また、諸先生方は懇切丁寧に指導して下さったので、私の意欲はどんどん刺激されてゆきました。そうして、学ぶ分野の幅を広げてゆくに従い、専門分野の知識どうしが意外なところで密接に繋がることを発見できるようになりました。その感覚は、私にとって驚きの連続で、とても感動的で魅力的なものでした。大学4年間、まるで中毒にかかったように勉強を楽しむことができました。大学生になって、やっと、学ぶ楽しさに出会ったのです。

やがて、その影響は、生物学だけでなく、心理学や哲学にまで及び、私は「心」に強い好奇心を抱くようになりました。例えば、細胞から構成されている脳という形ある物質の中のどこに「私」はいるのだろう?また、動物はどんな気持ちをもっていて、何を考えているのだろう?など、これらの疑問が私の頭から離れなくなったのです。そんな時、講義の中で、目に見えない感情、行動、心理が遺伝子にコントロールされている事実を知り、ピン!ときました。これだ!私は、生物学と心理学を結びつける可能性を秘めた研究にロマンを感じずにはいられませんでした。大学4年間で培った興味と知識は、大学院進学を決心するには十分なものでしたから、私は迷わず生物学と精神医学の両方に携われる神経科学を学べる研究室を選択しました。そして、現在の研究テーマに出会い、日々研究に励むようになりました。

このように、私は、初めから、人類へ貢献するために研究するぞ!と、立派な志を持ってこの道を選んだわけではありません。気が付けば、研究の世界に飛び込んでいたのです。生物に対して真剣に打ち込み、学ぶ楽しさを追求した結果、研究という形に落ち着いたのだと思います。ヒトも行動メカニズムのように複雑で、たくさんの因子が私たちを構成しています。その中でも、特に興味のある対象に素直に打ち込めば、研究に限らず、人生の目標に繋がる一歩を踏み出せると思います。みなさんも、自身の興味のある事に打ち込んで研究してみませんか。

推薦: 後藤 達彦(茨城大学)

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