研究者を目指すあなたへ
私がこの研究を始めた理由
佐藤 祐介(宇都宮大学)CV
「心配ないですよ。先生が退官される前に、僕がその因子を同定して、本当に効くかどうか、この体で試してあげますよ」。
自慢の胸筋を笑顔で指差しながら、確か、そんな感じのことを言った気がする。今から十数年前、退官間近だった教授に向かって放った言葉だ。
当時、僕が所属していた研究室では、豚骨格筋から、凄まじいタンパク質合成促進作用を有する(らしい)、未知の筋細胞成長因子を発見していた(何で豚?と思った)。しかし、その因子が何なのかは同定されておらず、研究室の最大のテーマだった。当時、学部4年生だった僕は、これは面白そうだなぁと、ただそれだけ思い、自分の卒論テーマにさせていただいた(その大変さを理解してなかったんだな、、、)。あの頃はまだ、豚のゲノプロなどなかったので、実験は、と畜場で新鮮な半身の豚肉をさばくところから始まり、デッカいカラムと HPLC で地道に精製するという作業の繰り返しだった(研究チームは僕を含めて2人だけ)。毎週末の合コンを除いて、毎日精製ばかり、たまにバイオアッセイしても全くうまくいかなかった。そこそこ必死にその因子を探し続けたが、卒論どころか、修論まで続けても結果は出ず、探し物は見つからなかった(因に、修士と博士の面接試験のとき、「その因子を同定して、この体で試して〜」って言って先生方に失笑された記憶がある)。博士課程に進学しても、相変わらずのテーマであり、相変わらずのつまんない作業が続いた。そんなある日、偶然学内のセミナーに参加し、ヒゲの生えた大人たちが、いろんな「オミックス(網羅的解析法)」なるものをタダで教えてやる、と怪しいことを言っているのを耳にした。騙されたつもりで、プロテオミクスなるものを伝授していただき、その手法で例の因子の探索をやってみた。毎日朝遅くから夜遅くまで、YouTubeで動画を見ながら、集中して実験し続けた結果、「(いろんな理由で)多分、この方法じゃ見つけられない…」ということに気付いた。これはマズいと思ったが、「先生には悪いけど、いっその事、別の何かを探そう!」、と勝手に方向転換することにした。やっぱり他人が見つけたものより、自分のオリジナルの方がいいに決まってる!(先生ごめんなさい)。さて、このときまでに、骨格筋量が減少するときに発現変化する因子を複数種特定していたので、手っ取り早く成果を出すためにも、その中から、既に遺伝子欠損マウスが作製されている2種に絞りこみ、研究を進める事にした。幸運にも、2種の遺伝子欠損マウスは海外の研究機関から難なく譲っていただくことができたので、すぐにいろいろ調べてみた。その結果、またまた幸運にも、2種とも未知のフェノタイプ(表現型)の変化を見出す事ができた(筋肉量とか脂肪量が減ってた)。このおかげで何とか学位を取得することができた(ま、結局オーバードクターしたけどね)。
今もこの研究を続けているけど、あのときは本当に無駄な時間が多かった。でも、毎日のように(勘違いも含めて)何かしらの発見があったし、周りの先生方や優秀な学振特別研究員の友人達に一泡吹かせてやるぞ!と、何か無意味に燃えてて楽しかった。今は色んな理由を付けて、あんまり研究できてないけど、今度は自分の学生たちと一緒にそうなれるよう、密かに狙ってます…。
今でも、いつか自分の発見を自分の体で試したい、という最初の気持ちは変わってない…。