研究者を目指すあなたへ
私がこの研究を始めた理由
喜久里 基(東北大学)CV
皆様、こんにちは。東北大学、喜久里の記事をご覧いただきありがとうございます。私、同大学大学院農学研究科において主にニワトリの暑熱ストレスを研究しています。今回は私がこの研究を始めた理由をお話したいと思いますが、科学的背景というよりは、この研究を始めるに至るまでの私の学部生活についてお話ししようと思います。
20歳までの人生において農学研究者になるということは頭の中に全くありませんでした。なりたくなかったというのではなく全く考えもしていなかったのです。医学部への入学を目指して、日々勉強に励んでいたのですがその夢も破れ、仕方なく別の学部への入学を考えなければならなくなったときに農学部を選びました。浪人最後の年のセンター試験の結果が壊滅的に悪く(今でも夢に出てきます)農学部でも非常に限られたところしか受験できず鹿児島大学を選び、そして入学しました。入学してからも2年間は講義を受けつつも虎視眈々と医学部への編入・再入学を考えており、講義は単位を取るために受けていました。編入試験の際の成績判定において、それまでの学部の成績は重要視されていましたので、A or AA評価にすべく周り以上に頑張っていたと記憶しております(このパワーを受験のときに出せていれば…)。このような、ある意味農学部としては不純な動機をもつ学生として2年間を過ごし、3年生を迎えました。
3年生になると専門に分かれ、食品機能化学という畜産・農芸化学・ライフサイエンスを主として行うコースに進みました。そこで、私の人生は大きな転機を迎えました。簡単にいうと講義・実習・実験が大変面白かったのです。それまでの講義・実習では既知の知見を淡々と教えられていたのですが、3年生の実験では未知のものを解明するためのプロセスを教えられ、これに非常に魅せられました。これまでの講義と実験内容が点と点で繋がっていくような感覚が大変面白く、自分の頭の中でいろんなことを思いつきそれを実践したくなりました。
3年生の後期より、研究室に配属され、その時の卒論テーマが「鶏の暑熱ストレスに関する研究」でした。あまりにもざっくりとしたテーマだなーと教員である今ならば思ってしまいますが、その当時はこのざっくり感に私のハートは射抜かれました。「これって暑熱ストレスに関することなら何でもやっていいんじゃね?」って感じで。実際はある程度研究の方向性が決まっていたので何でもというわけにはいかなかったのですが、思いついたことがある程度理に適っていれば指導教員の先生は「いいね、それやってごらんよ」という感じでトライさせてもらえました。結果として、面白いことがわかりこの成果をカナダでの国際学会で発表することになりました。鶏の暑熱ストレスは古くからの問題であるにも関わらず、現在でも有効な解決手段がありません。今は母校を離れ、東北大学で研究を行っておりますがそう遠くない時期にいい研究成果を報告したいですね。
多くの学生の皆さん、特に熱意がある学生さんほど、「これがやりたい!!」というのを持っています。それは大変結構なことなのですが、大学研究では研究内容の都合上、残念ながら必ずしもそれができる訳ではありません(皆がやりたいことをやれるようにお金をたくさん持ってればいいのですが…)。現実に、自分の熱意を向けるものがなくなり研究が面白くなくなってしまった人を少なからず見てきました。「これがやりたい!!」という熱意は非常に大事です。その一方で、科学全体をざっくりと眺めて、「こんな風なことがやってみたい」「とりあえずはこれ(与えられた課題)をやってみて、力つけて先生に自分の考えを色々提案してみよう」とかも全然ありです。自画自賛するわけではないですが、私は後者の考え方で結果的にいろいろうまくいきました。こだわりも大事ですが、何でもウエルカム的な“こだわらない”というのもまた大事なのかなーと最近は感じております(こだわらない=何も考えてないのとは違いますからね)。大学院以降の研究の話についてはまた別の機会に書きたいと思います。