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私がこの研究を始めた理由

中島 友紀(筑波大学)CV

現在、生殖細胞を用いた鳥類遺伝資源の保存を目標に、卵や精子の前駆細胞である始原生殖細胞の発生分化や機能に注目し研究を行っています。

私がこの研究を始めた理由についてお話したいと思います。まず、生物について興味を持ったのは、幼少期のころでした。小さい頃から絵本を読むのが好きだったのですが、とりわけ植物・動物図鑑や子供向けに書かれた人体に関する絵本を飽きもせず何度も何度も読んでいたことを覚えています。お気に入りは食べ物が消化・吸収・排泄されるまでが描かれた「うんこのできるまで/佐藤守・著」、ヒトの身体の仕組みや成り立ちについて書かれた「みんなのからだ/グウィン ビバース・著」の二冊でした。その時から、動物の”内側”について興味を持つようになりました。それと同時に、私が小学生の数年間、伯父が自然博物館の学芸員をしていたこともあり、頻繁に足を運ぶうちに身近な生物が絶滅の危機に瀕している事実を知り、それから生物の保全について考えるようになりました。

高校生になり、大学受験を迎えるわけですが、当時の私は理学系の生物学科に進学を志望していましたが、進路指導をしてくださった先生と相談した結果、農学系の学科に進学しました。当時の私は「生物」と「生物資源」の違いもよく理解しないまま進学を決めましたが、大学で生物学(理学系)と生物資源学(農学系)、両方の授業を受ける中で、生物資源学・農学には明らかな目標が存在することを知りました。同時に、その目標に到達するためには、基礎生物学の知識が必須であり、両者は別々に切り離された学問ではなく繋がっているということを知りました。

研究室選択の際は、「とにかく動物の研究がしたい!」と夢見ていたため、野生動物保護学と畜産学の研究室のどちらかにしようと早い段階で決めていました。前者は、以前から興味があった生物の保全に関連していたため候補に挙がったのですが、後者の畜産学については「動物を人間のために利用する」というぼんやりとしたイメージしかありませんでした。そこで、実際にどのような研究が行われているのか、畜産学研究室の先生方や先輩方の話を聞くことにしました。その際、現在の指導教官である田島淳史先生の「発生工学的手法を用いた鳥類遺伝資源の保存」という研究テーマを知り、迷わず所属先を決定しました。幼少期から興味があった「生物の内側(特に発生学)」を研究しながら「動物の保存」もできるなんて、こんな完璧な研究はない!と、意気込んでいました。

実を言うと、それまで動物といえば哺乳類という思い込みがあり、鳥類についてはほとんど興味がありませんでした。実際に研究を始めてみると、鳥類は「卵生」「嘴や羽根」「二足歩行」の他にも「生殖」「性染色体」など、哺乳類とは全く異なった特徴を有し、哺乳類の常識が当てはまらないことを思い知らされました。研究が進んでいる哺乳類に比べ、鳥類の情報が少ないことは時に障害になりますが、逆にそれが鳥類の研究を行う面白さであると今は思います。

また、現在取り組んでいるテーマである生殖細胞は、配偶子→卵→成体→配偶子・・・と形を変えながら世代を超えて続いていくとてもユニークな細胞です。まだ明らかになっていないことが多い鳥類における生殖細胞の発生分化、特に性分化機序を明らかにすることで、生殖細胞を用いた遺伝資源の保存・個体の復元をより確実にするという大きな目標に貢献できたらと考えています。生殖細胞の研究は、生物が発生し有性生殖を始め多様化していったという、生物の歴史そのものを紐解く鍵になるのではないかと思います。多少、いやかなり夢見がちかもしれませんが、そんな事を思いながら日々研究しています。現在は学生ですが、修了後は研究所等で基礎的な観点から繁殖生物学に貢献できる研究をしたいと考えています。

推薦:井尻 大地(鹿児島大学)

畜産学会広島大会の懇親会で撮影(平成25年3月)

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