研究者を目指すあなたへ
私がこの研究を始めた理由
友永 省三(京都大学)CV
自分が、大学の教員であることを不思議におもうときがある。なぜなら、高校生物の定期試験で0点をとったことがあるし、というか高校は中退しちゃったし、大学は浪人して留年したし、学部時代は合気道部で毎日汗を流して専門の勉強や研究よりも充実していたからである。
学部4年生で研究室配属された当初、「将来どうしたいのか?」と先生に問われ、「博士課程に進むことも考えています」、と堂々と答えた記憶はある。ただ、そう答えた根拠は記憶にない(笑)。研究室配属当時の自分には、支離滅裂な文章、下手なプレゼン、理屈をこねるばかりで体が動かない、などの欠点が多かれ少なかれあったのは確かだ。ただ、何かしら成し遂げたいという情熱だけは持っていた。そんなクセがある自分を学部から博士号取得まで一貫してご指導くださった先生には、本当に感謝している。おかげさまで、もしかしたら劇的に(?)、成長できたと信じている。それはともかく、そもそもなぜ農学部に進んだのか?流行りの「バイオテクノロジー」ができるという農学部に魅力を感じたのかもしれない。しかしながら、それが今の専門分野、というわけではない(笑)。どうも、昔から特定の研究をしたいとか強く決めていたわけではないようだ。
研究室に配属後、動物の筋肉に多く含まれるカルノシンというジペプチドを研究テーマとして与えられた。植物には存在せず、様々な生理機能が近年明らかになりはじめた興味深い物質である。自分で切り拓く余地をいただいたが、しばらくの間どう取り組めばいいのか途方にくれた。ただ、本当に悩んだ分、情報収集能力を向上させる必要性を痛感できたし、ようやくヒントを得たときにやりがいを感じて取り組むことができた。そして、幸運にも幾つかの研究成果を得ることができた。最初は、「脳内カルノシンがニワトリヒナの行動におよぼす影響」を論文にまとめて報告することができた。その後、大学内外との共同研究に発展し、カルノシンの「ラットにおける抗うつ様行動効果」や「マウスにおける学習行動改善効果」なども見出すことができた。各研究の過程で、様々な研究者(他大学、企業、公的機関など)と交流し、彼らの価値観に触れ、研究者として自分がやりたいこと、やれること、やるべきことを自然と考えるようになっていった。「カルノシンだけでなく、動物性食物にしか存在しない有効成分の機能を解明したい」、「ストレス反応を緩和するための研究は心身の健康維持に必要だから取り組むべきである」、「栄養学分野には意外と解明すべきことが多く残されている」、「自分の研究が世の中の役に立ったときの充実感を味わいたい」、などである。これらは、現在取り組んでいる2つの研究、「食肉に多く含まれるジペプチドの代謝調節と生理機能の解明」および「生後脳機能発達期における栄養学の確立」の背景となっている。
最後に、「研究者」といってもいろいろな人がいて、研究者になりたい、と早い時期から考え準備してきた人ばかりではなくて、遅れて研究への情熱を有した人は意外と多いし、そっちの方が頑張る場合だってあるのだ、と自分のためにも強調しておきたい(笑)。