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私がこの研究を始めた理由
後藤 達彦(国立遺伝学研究所)CV
私は現在、国立遺伝学研究所のマウス開発研究室で、マウスの行動遺伝学の研究をしています。今回は、私がこの研究を始めた理由を、過去に遡って書いてみようと思います。
私は岐阜県で生まれ育ちました。大学受験を控えた高校時代には、私はただ漠然と大学に進学しようと思っていました。理系を選択していたという理由で、ただ何となく、工学部や理学部の大学を探して、受験しようと考えていました。そして、そろそろ最終的に、どこの大学に願書を出すのかを決めなければいけないという時期に差し掛かり、両親に相談してみました。その時になって初めて、父親の仕事について、具体的に教えてもらいました。父親は、「畜産」の現場に従事しており、「畜産物」を生産することにより、世の中の人々の「食」に貢献していることを知りました。それまでの生活では、幸せなことに、「食」は当たり前のように存在していたために、それについてほとんど考えたこともありませんでしたが、「畜産」はヒトが生きていくために必要不可欠なものである「食」を支える重要な産業であることを知りました。そこで、将来、自分も「畜産」に関わる仕事をしてみたいと思い、「畜産」を学ぶことができる「農学部」へ進学することを決めました。
大学の学部時代の4年間は宮崎で過ごし、「農学」を学び始めました。「農学」の学問は、高校までに学んできたことと比較すると、より実学に近いために、より身近で楽しい内容が満載でした。その中でも、私が最も興味をもった分野は、やはり「畜産」でした。学部3年生からは、「畜産」コースの研究室に所属し、ニワトリの「繁殖学」を学びました(http://www.agr.miyazaki-u.ac.jp/~food/animal/reproduction/)。卒業論文の研究を通して、まだ世界中の誰も見たことのないような、生物の現象を明らかにしていくことの楽しさを知ることができました。
その後の大学院時代の5年間は広島で過ごしました。大学院からは、研究分野を少し変えて、家畜の「遺伝育種学」を学び始めました。そこでは、ニワトリの卵に関する遺伝形質(産卵数・卵の大きさ・卵殻の色・卵黄の重さ、等々)に関与している遺伝子座を探し出す研究を行いました( http://www.hiroshima-u.ac.jp/gsbs/interview/tudukimasaoki/)。この修士論文・博士論文の研究を通して、鶏卵のような「畜産物」の生産性・品質における違いは、とても多くの遺伝子座によって決められていることが分かり、さらには、それら遺伝子座における遺伝子型の組み合わせ(相互作用ネットワーク)も重要な働きをしていることが分かりました。このような遺伝現象は、家畜動物であるニワトリ・ウシ・ブタにとどまらず、マウス・ヒトを含む、生物において広く共通するような現象であることも知りました。これに加えて、所属研究室併設の日本鶏資源開発プロジェクト研究センター(http://www.hiroshima-u.ac.jp/top/kenkyu/now/no27/)における、数千羽の動物の系統維持を通して、家畜の「飼養・管理」・「育種・繁殖」など、「畜産」の幅広い分野に関わる、基本的かつ最重要な部分を体感する機会に恵まれました。
博士取得後、現所属の国立遺伝学研究所マウス開発研究室(http://www.nig.ac.jp/labs/MGRL/)では、モデル動物であるマウスを用いて、行動の個体差に関わる遺伝的機構を明らかにしようと研究しています。モデル生物を用いた基礎研究を通して、生物に共通する遺伝現象を理解していくことは、将来、自然科学の幅広い分野での応用に繋がっていくものと期待できます。
以上のような経緯で、私は現在「アニマルサイエンス」に携わっているわけですが、「畜産」の研究は、「食」を支える重要なものであり、その研究成果は現行の「畜産」への応用に直結する可能性をもった、発展性のある、楽しい研究です。私は、動物が示す個体差に関わるような遺伝現象の理解を進めることによって、将来的には、その成果を「畜産」現場にかえしていけるような研究を続けていきたいと思っています。