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私がこの研究を始めた理由

小柴 満美子(東京農工大学)CV

私は、音大を卒業後、宇宙や医療光学機器開発のエンジニアを10年ほど経て、健康科学の教育研究を目指し東京農工大学学部1年に入り直して脳発達のアニマルサイエンスを始めました。科学技術が超加速度的に進む現代社会を見渡すと、いじめや自殺、発達障害、高齢認知症など、精神疾患が他の疾病よりも顕著に増加し、人間の生涯の精神発達を支援する客観的なサイエンスを進める必要性を強く感じました。そこで、2005年に学位取得後も、心理発達のアニマルモデルの樹立を進めています。言葉を持たない動物の心理を私たちが理解できるように翻訳する技術開発を目指して、多様な行動や脳波などの生理、生体分子の客観的な情報を取得し、社会や気候リズム、発達時間、栄養など、食住環境に依存して変化する統計的な動態解析可視化システムの試作検討を進めています。

「心身の健やかさ」とは何か?という疑問の答えは、生きものの生得条件や環境により、多様に変化するでしょう。私たち人間と動物、植物は、同じ地球の中で、持ちつ持たれつ、動的にバランスを調整することで互いに存在することができます。それぞれのバランス状態を調整する指針を探求することが、私の研究ベクトルである、と考えています。

そのために、生きものと周囲環境の情報を異なる側面指標でできるだけ見渡し、包括的に私たち人間が理解できる翻訳可視化法を開発し、人間と動物や植物、同種、異種間のコミュニケーションを助ける実用技術を世に送り出したいと思っています。

その一つ目の実用化技術として提起したのが、情動定量翻訳BOUQUET法(Koshiba et al.(2011) PNPBP; Senoo et al.(2011) PNPBP, Koshiba et al.(2013) PlosOne、第114回日本畜産学会・若手企画シンポジウム(2011)北里大学)です。模式図にて、二種類の生きものの発達が、幼若期、性成熟期、成体期の各座標面で、出現する領域が異なる様を例示しました。各面は、多変量解析により複数の統計的に定義づけた指標間がどの様な相関構造を示すかを、底面の各指標のベクトルによって説明づけられています。垂直方向に発達齢軸を展開した解析空間で、定型発達(実線)や、非定型発達(点線)の近似曲線により、複数の生物と環境の情報を統合した動態が定量的に可視化されます。

このBOUQUET法を、卵から孵ったニワトリ・ヒナの行動発達計測に適用してみると、▼印で示す様な、一定の時期に同齢間の社会性、すなわち、友だち同士でコミュニケーションするような社会環境への高感受性期があることがわかってきました。この高感受性期に社会学習ができなくなると、定型発達の行動と異なる様子が再現的に示されました。一方で、他個体と共通な動機を刺激するソーシャル・スキル・トレーニングと安全性が高い抗酸化栄養食との相乗的支援により、発達が回復する様子も捉えることができるようになりました(115回大会、2011年)。

このBOUQUET法の、家畜や伴侶動物、霊長類、人間への応用検討を進めています。

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