研究者を目指すあなたへ

私がこの研究を始めた理由

江草 愛(日本獣医生命科学大学)CV

私は、現在、畜産物の素晴らしさを、「健康」と「おいしさ」の観点から研究しています。畜産物とは、食肉の他、乳や卵(玉子)を含みますが、この中でも、特に食肉(骨格筋)と畜産副生物(内臓・血液・骨や皮など)を研究対象にしています。高校生の方には『チクサンフクセイブツ』は、聞き慣れない言葉かもしれませんね。私達が大好きな焼き肉のカルビやロースは、姿勢の維持や運動に欠かせない骨格筋です。一方、一部の方に根強い人気のレバーやミノは生命維持に関わる臓器の筋肉(平滑筋)であり、畜産副生物に分類されます。モツ鍋やホルモンは愛好者が居るとは言え、内臓の消費量は骨格筋に比べて少ないのが現状です。さらに、血液にいたっては日本では殆ど食用にされていません。一方、ヨーロッパ諸国ではブラッドソーセージ(blood sausage)として、血液も有効に活用されています。(写真はブラッドソーセージと自家製ザウワークラウト:キャベツの酢漬け。美味しそう!)鶏では生体の約50%が可食部位として利用されていますが、残念ながら残りは食用としての用途ではなく、飼料や肥料として使われています。畜産物は、私達が生存するために、動物からいただいた「いのち」ですので、無駄なく活用し、畜産物の価値向上に努めたい、といつも考えています。

ところで、今回は「私がこの研究を始めた理由」というタイトルですので、何故、現在の研究テーマに興味をもったのか、過去に遡って、振り返ってみたいと思います。皆さんはNHKの番組で「驚異の小宇宙・人体」というシリーズを放映していたのをご存知でしょうか?当時、中学生だった私は、毎回、興奮しながらテレビにかじりついて観ていました(年齢がバレたか!?)。特に、「肝臓」の放送回で、『人間1人の肝臓の働きを実際のプラント(工場)で再現すると、どの程度の規模になるのか』について検討する内容は、未だに鮮明に思い出すことが出来ます。生化学者やプラント設計者ら専門家8人で計算したところ、なんと東京都に匹敵する広さが必要だという事でした。それでも、膨大な廃液の処理が出来ず、100日程度しか稼働出来ないそうです。肝臓では、生命活動を円滑に進めるための種々の酵素(反応触媒)があるため、現実には大きなエネルギーや広い場所を必要としなくても、解毒やエネルギーの生産および蓄積ができます。この事実は衝撃でした。地球誕生の46億年前から長い年月をかけて進化してきた生物には、人智を超えた多様性を備え、無駄なものは微塵も含まれていない事実が、深く心に刻みこまれた瞬間です。(現在も、肝臓の遺伝子発現量を調べる機会がありますが、ツルツルでベロベロとした形状とは裏腹に、栄養や健康状態をよく反映して、繊細に活動する姿に度々驚かされます。)

その後の進路は、自然の流れで生命科学を選択し、そこに食欲も加算されて、現在の研究テーマである、動物からいただいた命を次の命に活かす仕事(健康)と、その命を更に美味しくいただく仕事(おいしさ)に辿り着きました。食肉や畜産副生物を研究対象に扱っていますが、やはり根底には生物への興味と驚きが脈々と流れていると思います。

尚、私が現在取り組んでいる研究内容の詳細については、別の回で紹介したいと思います。

(因みに、「驚異の小宇宙・人体」シリーズは全巻がDVDとなって販売されています(必要な放送回だけ購入するのも可能)。今回、この原稿を書きながら、ネットで購入してみました。現在、保育園児の娘が中学校にあがったら、もつ鍋を食べながら一緒に鑑賞したいと思います。日本の畜産物利用の明るい未来を信じて…。)

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