研究者を目指すあなたへ

私がこの研究を始めた理由

井尻 大地(鹿児島大学)CV

私は、鹿児島大学農学部生物資源化学科の栄養生化学・飼料化学研究室で「骨格筋の量や質を決定するメカニズムを明らかにして、食肉生産へ応用する」ことを目的した研究を行っています。このテーマは、大学の卒業研究を始めたときに研究室の先生から頂いたもので、卒業後も自分なりに発展させて研究しています。本稿では、私がこの研究を始めたきっかけについて紹介したいと思います。

大学へ進学するにあたり、私は「つくば」に住みたいという気持ちと「バイオテクノロジー」という言葉に憧れて、筑波大学の生物資源学類へ進学しました。当時の私は、「バイオテクノロジー」という言葉に憧れたものの、その意味を理解していなかったように思います。そのため、入学後には、「学びたいことが決められない」→「授業に興味が持てない」→「さぼりがち」→「試験は一夜漬け」→「単位を落とす」→「ますます学びたいことが決められない」という負のスパイラルに巻き込まれた典型的なダメ学生となっていました。

そんな状況の中、「家畜の品種」や「家畜の生理」に関する畜産系の講義を聴いた時、とても面白くて、大学に入学して初めて「もっと勉強したい」と感じました(*筑波大学の先生の講義が悪いのではなく、あくまで私のレセプターが畜産系の講義と反応したということを断っておきます)。筑波大学で受講できる畜産系の講義数は少なかったので、もっと勉強するために畜産学研究室に入ろうと決心しました。そこで、同じサークルの先輩で既に畜産学研究室に在籍していた石田藍子さん(現、畜草研)に研究室の様子について質問に行きました。当時、石田さんは日々図書館で一生懸命勉強されていたのですが、突然現れた私の質問に対して嫌な顔ひとつせず丁寧に答えてくれました。

石田さんから「先生に直接質問に行くとよい」という真っ当な助言をいただき、畜産系の先生に研究内容について聞きにいきました。その中で最も私の興味を引いたのは、平林美穂先生の「家畜の筋線維型を決定するメカニズム」についての研究でした。前年に着任された平林先生は、自分の研究を立ち上げているところで、「ニワトリのヒナに寒冷感作をすると、短時間で筋肉の色が変化する」という発見したばかりの現象をとても楽しそうに説明してくれました。その場で、「先生の研究を一緒にやらせてください」とお願いし、卒業研究の配属先が決定しました。

研究室に配属されてから、私は畜産と筋肉の勉強が面白くて仕方ありませんでした。そんな中、当時畜産学研究室の教授だった金井幸雄先生から「君はいつまで勉強するの?農学や畜産学は応用科学なのだから、どこかで社会に貢献することが必要だよ。君はどうやって自分の研究を社会へ還元するの?」という質問を投げかけられた時、全く答えられませんでした。その問いで「メカニズム」を調べることに躍起になっていて、「それが社会でどのように役に立つのか?」ということを全く考えていない自分に気づくことができました。結局、博士課程を修了するまで筑波大学でお世話になりましたが、「研究を進めること」と「自分の研究を社会で活かす方法」の両方を常に考える姿勢を身につけることができ、今の「骨格筋の量や質を決定するメカニズムを明らかにして、食肉生産へ応用する」というテーマにつながったのだと思います。

つらつらつらと自分が研究を始めたきっかけについて述べてしまいましたが、現在の自分があるのは、遅かったものの「学びたい学問(畜産学)」に出会えたことと、的確なご助言や研究の面白さを教えて頂いた先輩や先生に出会えたおかげであると思います。

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