研究者の日常

研究者になって良かったこと悪かったこと

江草 愛(日本獣医生命科学大学)

  • 研究者になって良かったこと→宝探しの毎日。
  • 研究者になって悪かったこと→実験系の研究は場所と時間に拘束されるので、夫と子供がいつも待ちぼうけ。
  • *「悪かったこと」については、働く女性なら誰でも抱える問題かも知れません。家族に対して申し訳なく思う分、家庭に戻ると自然と優しく接するようになります。(そもそも畜産系の方は皆、根が優しいですからね)

さて、私はお肉が大好きです。お肉は何と言っても嗜好性がよく(平たく言えば、美味しい)、良質なタンパク質の供給源であり(体を構成し、健康な状態を維持する)、香りを嗅ぐだけで気分を高揚させてくれます(テンションが一気にあがる)。しかしながら、食肉については、悪いイメージが付きまとうことがあります。

生命科学系の文献検索サイトであるPubmed(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed)で、「meat(食肉)」、「mortality(死亡率)」を入力すると、「食肉摂取と脳卒中のリスク」や「食肉摂取と冠動脈疾患との関係」、「食肉摂取と糖尿病発症」等々、恐ろしいワードを冠した論文が次々とヒットします。因みに、ここでいう、食肉とは‘Red meat’、即ち牛肉・豚肉(およびその加工品)を指し、何故か鶏肉は入りません。ギョッとするタイトルですが、よくよく内容を読んでみると…、例えばEuropean Journal of Clinical Nutrition (2013) 67, 91-95.によると、過去5回のコホート研究(日本を含む)をメタ解析したところ、1日あたり食肉の摂取量が100g増えれば、脳卒中リスクが13%増加するとの結論を導いています。20歳以上の日本人の1日あたりの食肉摂取量が男女平均で80g弱(平成23年度 国民健康・栄養調査、厚生労働省)から鑑みると、100gの増加は「ちょっと食べ過ぎじゃないかしら?」という気になります。同様に、JAMA International Medicine (2013) 173, 1328-1335. でもアメリカ人を対象としたコホート研究で、食肉の摂取量が4年間で3倍以上(1日に25gの食肉を摂取していた人が、4年後に摂取量を85g)に増やすと糖尿病のリスクが2倍になったと報告しています。(但し、摂取量を変えなかった場合のリスクを1とした場合の相対比で表しています。つまり、1日に食肉を60g摂取していた人は、4年間同じ量を食べ続けていた場合、糖尿病リスクには変動がなかったことになります)また、不思議なことに日本人を対象とした研究 British Journal of Nutrition (2013) 110, 1910-1918.では1日あたりの食肉摂取量が100gを超えると男性では糖尿病の発症リスクが増えますが、女性では相関性が認められない(むしろ減っている?)結果が得られています。沢山肉を食べる男性には血糖値を上昇させる他の要因があるのかも知れません。

報告されている文献の一部を紹介しましたが、私なりの解釈では、結局は食べ過ぎるのが問題ではないかと思います(それとも、ついつい食べ過ぎてしまうほど、食肉が美味しいのが問題なのでしょうか。お酒もすすみますしね)。

我々は異物を摂取して生命を維持しています。生命活動の基本である「水」でさえ、大量に摂取すると逆に水中毒(低ナトリウム血症)で命を落とす危険性をはらんでいます。尊い命をいただいている訳ですから、食肉を単に悪物にするだけでなく、良い面ももっと見つけて行くのが私の使命(正義)だと思っています。そういう意味で、研究者になって良かったと思いますし、宝探しの毎日だと考えています。

お肉は、歳を重ねる毎に食べる量が減る気がします。若さのバロメーターなのでしょうか。

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