研究者の日常

研究者になって良かったこと悪かったこと

松浦 晶央(北里大学)

○良かったこと

  • ・馬にかかわる仕事ができること:
  • 私の朝は馬の世話で始まります。したがって、研究室の学生とも朝に顔を合わせるのは研究室ではなく、厩舎です。馬の世話や調教が一通り終わってから研究室に向かいます。動物に触れずに研究室に籠もって主にラボワークのみを行うのは私のスタイルではありません。馬の研究をするために、必ずしも毎日自ら動物の世話をする必要はないのですが、対象動物を毎日触っているからこそ生まれるアイデアというものがあります。テーマを決めるときも、実験手法を練り直すときも、測定結果を解釈する際も、現場で動物に触れるときに得る感覚を大切にしています。そもそも私は学部時代から、将来は馬に関わる仕事をしたいという強い思いを持っていました。特に、日本では馬にかかわる仕事は限定されています。毎日、馬を触りながら仕事ができるという点は、馬の研究者になって良かった点です。研究用の乗用馬の調教を終え、常歩のリズムに揺られながら空を見上げると、あぁ馬の研究者になって良かったなぁ-、と実感します。

  • ・面白そう、面白い!と思ったテーマを研究できること:
  • 各研究者の研究環境にもよりますが、私の場合は「これは面白そう!」だとか、「これを解明できれば有意義だ!」とか、「このテーマは私がやらなければ他に誰がやるんだ?」などと思った瞬間に、実は研究は始まっています。本格的にそのテーマの研究を自分で進めるかどうかはその後数々のステップを踏んで判断しますが、自分自身で選択したテーマを研究できることほど素晴らしいものはありません。「面白い」と感じることを仕事にできるのですから、仕事の枠を超えて趣味に近づくことになります。時間を忘れて熱中できるのも、「面白い」がスタートだからです。
     ただし、研究に情熱は欠かせませんが、ある程度の資金がないと好きな研究もままならないというのも、また事実です。したがって、申請書を書いて研究費確保の努力をすることになります。斬新なアイデアで、有意義な研究成果が期待できるという見通しをもって具体的に研究を計画をし、これが認められれば初めて資金確保ができるのです。脳みそを最大限使って面白い内容であることを表現し、めでたく資金が確保できれば、ますます面白い分析・解析ができます。予想していた結果であっても予想を裏切る結果であっても、「面白い」結果が得られれば、もう言うことはありません。

  • ・卒業式にうれしさを実感できること:
  • 投稿論文が受理されて自分の研究論文が学術誌に掲載された瞬間はやはりうれしいものです。しかしながら、指導した学生の卒業式は、それとは比較にならないくらい私にとってずっとうれしい瞬間です。研究には終わりがなく、ある課題を解決できればまた次の課題が見つかるのが常です。一方、学生の卒業式は、指導した学生が自分の手から離れ、社会人としてスタートを切る儀式です。学生の卒業式は自分自身の一年間を振り返るひとときでもあります。研究成果が良くても悪くても、その年度の学生と、厩舎、フィールド、あるいは研究室で過ごした一年間は、私にとって大切な一年間です。毎日何かに追いかけられながら走り続けなければなりませんが、卒業式の一日だけは落ち着いてその一年を振り返ることができる貴重な一日です。

○悪かったこと

  • ・家族と一緒に過ごす時間が少ないことが、唯一、悪かったことです。

北里大学馬術部の厩舎。厩舎内の馬や草のにおいはたまらないくらいいいものです。

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