研究者の日常

研究者になって良かったこと

塚原 直樹(総合研究大学院大学)CV

今回は研究者になって良かったこと、というよりは、カラスを研究していて良かったことについてお話させていただきます。

総研大に移り、都内に行く機会が増えてから、居酒屋にお一人様で入るのがマイブームになりました。一人で居酒屋に入ると、高い酒も遠慮なく頼める、野菜を注文しなくてもよい、揚げ物を連続で注文しても怒られない、締めに炭水化物にいってもひかれない、などの数々の利点があります。そもそも酒と肴にはマリアージ・・・おっと、全く関係ない居酒屋の話を熱く語りだすところでしたが、話を本筋に戻します。

実は私は極度の人見知りでして、体型を活かした自虐ネタでないと笑いをとれないくらい話下手であります。研究者の世界は、一見研究にだけ打ち込んでいれば万事OKと思われがちですが、それで飯を食っていけるのは一流の方だけではないかと思うくらい、コミュニケーション能力が重要です。いかにコミュニケーション能力が重要かの話は別でするとして、研究者活動を行う上で、人見知りだと大変苦労します。そこで私は、人見知りを少しでも克服するため、一人居酒屋トレーニングというのをやっています。勢い良く生中を飲んだ後、思い切って隣のおっさん、じゃなくて居酒屋紳士に声をかけるという、人見知りの人間からしてみたら、まさに清水の舞台から飛び降りる、といった勇気ある行動です。うそです。正確には、生中を飲んで、レモンハイを1杯、日本酒の2合目に手を付けて、ちょっと前後不覚な感じになったくらいに声をかけます。話し相手がいない一人居酒屋は、手持ち無沙汰でついついハイペースで飲んでしまいがちで、通常よりも酔いが回るので、初めてやる時は気をつけましょう。

ともかく酒の力を借りて、全く知らない人に声をかけるわけです。話題はその店の名物の話、「そのもつ焼き旨いっすよね、私ももう一本いっちゃおうかなー」から入るのが無難です。相手も一人で来るくらいその店のことが好きなわけですから、これは盛り上がります。次は出身地の話などをしていると、だいたい意気投合してきていい感じに仕上がってくるわけです。その後、「また一緒に飲みたいっすねぇ、名刺交換させてください」と名刺を差し出します。その時、研究者をやっているとなると、「どんな研究をやっているの?」という展開になるわけです。「名刺の裏をみてください」、私の名刺の裏には英語で所属等が書かれていますが、カラスのシルエットも一緒に載せています。これは、英語が苦手な私が海外の研究者と会話をする際、強引に自分のフィールドに話を持ってくるための仕掛けですが、居酒屋紳士と話す時にも効果を発揮します。「カラスの研究してるんですよぉ」と言うと、十中八九「カラスってほんと頭いいよねぇ、この間もさ・・・」と、居酒屋紳士が自分から流暢にカラスエピソードを語ってくれます。その後は、こちらの研究の話にも興味を持ってくれて、「えーカラスって紫外線見えるんだー」なんて、大げさにリアクションしてくれて、自然な流れで、今はやりのサイエンスカフェ、ならぬサイエンスパブが始まるわけです。科研の申請書の『研究成果を社会・国民に発信する方法』の欄に、居酒屋でのアウトリーチ活動、と書きたいくらいですが、「今度どっかでしゃべってもらおうかなぁ」なんて本当のアウトリーチ活動に発展したりもします(何人かに言われましたが、未だ実現したことはありません。居酒屋紳士の呂律が回っていないくらい酩酊していたためと示唆されます)。

また、マスコミの方から取材を受ける機会も多く、と言っても、元ボスの下請けがほとんどですが(先日初めて直接取材を受けました)、メディア露出の機会もあります。親には最初、カラスなんて研究してなんになるの?なんて、言われ続けてきましたが、今や、私の記事が載った新聞や取材を受けた本はわざわざ購入して、喜んでくれています。

研究者を目指す皆さんも、何をテーマにするか、というのは非常に重要だと思います。もちろん自分の興味も大事ですが、これからの時代、研究のアウトプットとして、一般の方にわかりやすく伝えるというのが重要かと思います。誰でも興味を持ってくれるような研究に関するネタをひとつやふたつは用意しておくのも、これからの研究者には大事なことなのかもしれません。私の場合、カラスという生き物そのものを面白いと思ってくれる方が多く、労せず、相手の興味をひくことが可能ですので、ほんと研究対象に恵まれたなあ、と思っております。

新宿思い出横丁にて(1軒目から2軒目への道中にてselfie)

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